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2016-04-24 19:48 | カテゴリ:院内生活
(※断酒40日目/退院まであと3日)
 今朝は早朝4時前に目が覚めた。水回りの排水ができない件は連休明けまでと聞いていたが、トイレも洗面所も既に使用可能になっていた。
 石橋看護師に訊くと、
「あー、もう大丈夫みたいだね」
 とのことだった。

 昼近くになって、病院裏手から柏山を登り、展望広場へ行ってみた。入院して間もない頃、草刈さんに教えてもらい町を一望した、あの場所だ。
 連休最後の祝日は、すっかり夏の陽気になっていた。家族連れの姿が多く、広場の噴水で子供たちが水遊びをする光景が目についた。
 叢に寝転がって空を眺めた。照りつける太陽が眩しい。前にここからこの町の景色を一望したときはどんよりとした曇り空で、何だかいたたまれない、やりきれない気持ちになったことを思い出した。




 僕はこれから、この晴れ渡る空を仰いで生きていけるだろうか。


 午後。明日退院する米窪さんから直筆の絵を何枚かいただいた。スケッチブックに描かれた車の絵のうち、シボレー・カマロやキャデラックなど、4枚をいただいた。
「せっかくだから、サインを入れて下さいよ」
 僕が頼むと、米窪さんは「そんなの書いたことないからなあ…」と戸惑い、照れながらも、左下隅にそれぞれアルファベットでサインを入れてくれた。



 早出しの夕食後は、西町教会のAA「カッコー」に出かけた。テーマは『最初の1杯を遠ざける』。6月に入って「アカゲラ」で、進行役の男性が話したことを思い出した。
「私は酒のことで兄との喧嘩が絶えません。兄は1杯でちゃんとやめられます。ところが私は、その1杯から始まるんです」
 その1杯から始まる。それは僕も同じだ。最初の1杯が始まると止まらなくなる。いや、酔い潰れて意識がなくなるまで止めることができなくなるのだ。
 最初の1杯をどう遠ざけたらよいのか。しっかり食事をして満腹のときは飲食欲求が沸かないのは分かっているのに、飲食欲求が沸くから食事をせずお酒に手を出すのだからタチが悪い。厄介な問題にして切実なテーマだ。
 ただ、もうひとつ分かっていることがある。それは、僕がお酒に走るのは現実逃避だということだ。日常生活で起こる不安や自己嫌悪が、僕を「酔っ払った自分」という安全地帯へ逃げ込ませる。実際には安全でも何でもないのだが、お酒の力がそう錯覚させてしまうのだ。
 だとすれば、すべては僕のココロの弱さに起因するのだ。

 僕は強くなりたい。変わらなければいけない。そして、それをするのは他ならない僕なのだ。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。
【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
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2016-04-18 08:18 | カテゴリ:入院生活
(※断酒39日目/退院まであと4日)
 入院生活最後の日曜日。
 昨日の周知の通り、今日も日中は病棟の水回りが使用できないため、トイレや洗面所には水の入ったバケツが置かれている。それはそれで不便なのだが、歯茎の痛い僕には朝食に出たレンコンが食べられないことのほうがはるかに問題だ。


 午後。退院の準備をしている米窪さんが私物を宅急便で送りたいというので、一緒に病院隣のコンビニへ向かった。体調の良くない米窪さんに代わって荷物持ちを買って出たのはいいが、病院の裏手の坂を下って歩いているうち、その重さがしんどくなってきた。
 歩調に合わせて、段ボール箱の中のものがガチャガチャと音をたてる。両手で持った箱を肩へ乗せて運ぶべく持ち変えた瞬間、手からするりと滑り抜けたそれは地面に激しく打ちつけられ、そのまま坂をがしがし転がって行った。
「おい! 俺の荷物!」
「あっ! すいませーん!」
 慌てて荷物を拾いに走る僕。段ボール箱は惨めなくらいひしゃげたが、中のものは大丈夫だろうか。直後、ふたりして声を張り上げ爆笑した。
 何だか、これまで押さえていたものをすべて吐き出したような大爆笑だった。

 そのままふたりで西町駅前のショッピングモールへ散歩に出た。外は涼しく、日射しが心地良い。これまで何度となく訪れたこのショッピングモールには、退院後もAAに来るたびちょくちょく寄るかもしれない。そう思った。

 病院に戻って寝るという米窪さんと分かれ、そのあと僕は3時半からのAA「つぐみ」に参加した。遅れて利根川さんがやって来たが、何だかひどく疲れている様子で、薬が効き過ぎているのか朦朧としていたのが気になった。

 帰院して夕食後は、院内AA「アカゲラ」のミーティングに出席した。参加者は倉持さん、竹内さんら5~6人程度だった。僕にも疲れがあったのか、申し訳ないことに全く集中できず、話をほとんど聞いていなかった。

 人のことは言えないものだ。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
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2015-07-15 18:43 | カテゴリ:病棟の人々
(※断酒38日目/退院まであと5日)
 今日から月曜まで、日中は病棟の水回りが使用できないという。何でも別の病棟の工事とかで、朝の9時から夕方5時までは排水ができないらしい。突然の周知にも困ったものだが、文句を言ったところで始まらない。


 土曜はお休み、と公言していたはずの利根川さんがAA「アカゲラ」のミーティングへ出かけるというので、一緒に行くことにした。日曜の院内AAには何度か参加している「アカゲラ」は毎週月、木、土曜の3回、北町の25丁目教会でミーティングを行っているが、会場が病院から遠いこともあって、まだ院外のミーティングに足を運んだことはなかった。土曜日は午後2時から開始とのことで、昼食後すぐに病院を出た。

 西町駅で、利根川さんが乗車券として使用するプリペイドカードを買うという。利根川さんら生活保護受給者は、申請すれば自助グループ参加のための交通費も全額支給されるのだ。
 いつもは1,000円分とか3,000円分とか、決まった金額のカードが券売機で買えるはずなのだが、どういうわけかそれができなくなっている。駅員さんによると、なんでもチャージ式のICカードに変わりプリペイドカードが廃止になるため、新規の購入はできなくなったらしい。
 ということはその、ICカードを新しく買ってチャージしなければならないのだが、途端に利根川さんが焦り始めた。買い方がよく分からないうえに、僕を待たせていることが申し訳ないと思ったのだろう。AAの開始時間もある。
 使い捨てのプリペイドカードに比べて、チャージ式ICカードの新規購入は名前だの何だのを入力するので、不慣れな人からするとひどく面倒なものかもしれない。カード購入機のタッチパネルを操作する利根川さんの指が震えている。明らかにテンパッているのが分かった。
「あの、サトウさん、す、すいません。先に行っててください」
 声もどこかうわずっている。
 ―― あ、これが利根川さんの症状か。
 そう直感した。

 利根川さんはアルコール依存症と併せて、パニック障害、強迫神経症というココロの病気を抱えている。普通の人なら気にしないような取るに足らない出来事にでも、急に大きな不安に襲われて、極度に混乱してしまうのだ。利根川さんの場合、例えば自宅から外出しても、戸締りはしたか、ガスの栓は閉めたかなど、細かいことが病的に気になって不安に陥るのだそうだ。
 思えば僕も似たようなものだ。もともと過度な心配症ではあったけれども、精神的に不安定なときは特に妄想が顕著になる。道を歩いていても頭上から何かが落ちてくるのではないか、一時停止の車が突然動いて轢かれるのではないか、背後からカラスにでも襲われるのではないか ――
 入院直前の僕はそんな不安に襲われることが多々あった。大阪で生活する自信を失くした頃もそうだった。少なくとも、激しい強迫観念に取り憑かれるという意味では、僕も他人事ではないのだ。

「大丈夫ですよ。僕もICカードの買いかた知りたかったし。ゆっくり行きましょう」
 ひとりで先に行くなんて、できるわけがない。利根川さんを待って、少し遅れてAA会場へと向かった。


 帰り道。西町駅から路線バスで帰院するという利根川さんと別れて、ひとりで歩いて病院へ戻った。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
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2015-06-15 19:29 | カテゴリ:AA
(※断酒37日目/退院まであと6日)
 退院まであと何日だろうが、そんなことにはお構いなしに歯茎の腫れは容赦なく僕を攻めたてる。それでも負けじと、入院最後の料理に参加する。今日は『炒飯祭り』だ。

 スタンダード、シーフード、カレーの3種類の炒飯を作るのだが、僕はシーフード炒飯と、デザートのミルクプリンを担当した。
 中華鍋の火力を最大にして炒飯の煽りに入るが、何せ量が多く、重い。米がベトつく。焦げそうになる。なかなか手際よくはいかないものだ。

 結果、出来上がった炒飯はどれもパラパラとはいかないものだった。そりゃそうだ、一気に何人前作ってるんだ。
 それでも、いつもいつもフォローとして挙がる感想だが、味は良かった。





 最後の創作は、例の木工クラフトのイルカに塗装を施した。組み立てじたいは既にベッドで済ませておいたので楽勝と思っていたのだが、革用の青い染料が予想だにせず木材に馴染まない。ムラなく塗るのも相当に難しい。というより、僕が不器用でもたもたしてるからなのだが。
 結局このイルカは、左右と脚のヒレのところまで塗り終わることなく時間切れとなってしまった。なるほど、未完成なことろがまた今の僕らしい。何だか分からないけどそんなふうにカッコつけて、これはこれでそのまま出来上がりとした。



 午後3時からの柏ノ丘例会も、入院中の参加はこれが最後だ。僕はその旨を述べて、これまでお世話になったことへ感謝の挨拶をした。
 今日の例会にはあるご夫婦が参加していた。旦那さんが依存症で、かつてはDVで奥さんを苦しめていたそうだ。現在はお酒を断ちながら、これまでとは違う『飲まない人生』を実践しており、旦那さんにしてみれば『2度生きる』ことの意義を痛感しているのだという。
 亭主の暴力を受けながら、それでも再び共に歩むことを選んだ奥さんには頭が下がる。そういう意味では、勝瀬さんや米窪さんの奥さんも同じことがいえると思う。もちろんそれがかつて院長が学習会で示した『共依存』の関係でなければいいのだが、今の僕は純粋にそうでないことを信じている。


 早出しの夕食後、北町の町民センターでのAA「ホオジロ」のミーティングへ出かけた。初めての参加となるグループで、外泊していた優二さんと途中で待ち合わせて向かった。北町の町民センターも初めて足を運ぶ会場だ。中央町で電車を乗り換えて数駅、病院からはなかなかに遠い。
 会議室には10数名が集まっていた。初めてのグループとはいえ、知った顔もある。54号室の竹内さんも来ていた。ミーティングが始まってからは「オオタカ」のナホさんも姿を見せていた。
 僕は今日のミーティングで、以前の職場をクビになった理由を話した。あまりにみっともなくて、これまで口にしなかったことだ。それでもこの機会にと、何となく話す気になったのだ。

 今の仕事の前にも、僕はコールセンターで契約社員として働いていた。インターネットプロバイダのカスタマーサポートで、コールセンターといってもごくマイナーなプロバイダのため入電も少なく、同僚数人で回しているアットホームな職場だった。
 毎日の深酒が絶えない僕は翌日になってもアルコールが抜けず、午前中などはまだ酔いが残ったまま顧客対応をするという有りさまで、上司からお酒の臭いを指摘されることも少なくなかった。
 そんな状態でも一応は仕事を続けていたのだが、たちの悪い飲酒は収まるところを知らない。しばしば休みの日に、とてもバカげた行動をとるようになった。
 休日、昼間からお酒を煽りいい気持ちになった僕は、今まさに同僚が働いているセンターのフリーコールへ、お客のフリをして電話をかけるようになったのだ。要するに「イタ電」ということになる。なぜそんなことをしたのかといえば、お酒に飲まれて「人恋しくなったから」としか答えられないのだが、もちろんそんな理由は通用しない。
 この、迷惑極まりない行為がいったい何度続いただろうか。やがて僕の知らないところで密かに「サトウに似た声の人物から、ときどき入電がある」という噂が立ち、看過できなくなった上司が通話録音や着番を調べた結果、あっさり僕の犯行がバレてクビになったというわけだ。
 僕は何をしているのだろう。
 実のところ、直接、間接を問わず、お酒に絡んだ失敗で仕事を辞めざるを得なくなったことは、これまで何度もあった。僕はそのたびに後悔し、つくづく自分を情けなく思った。それなのに性懲りもなくこの体たらく、それも周囲にさんざん迷惑をかけての失態だ。もっともこの件については悪質な業務妨害であって、釈明のしようがない。会社やクライアントから訴えられずにクビで済んだだけマシなのだ。
 お酒の問題と一口にいっても、それは健康上の問題や経済的な問題だけではない。モラルが崩れ、人としての行動規範を大きく逸脱させてしまう危険がある。人間関係を破壊するのはもちろんだが、このままだと取り返しのつかない犯罪行為を引き起こすかもしれない。
 ひとりでヘコめる失敗のうちに、早くそれに気づけ。


 ミーティングが終わり、再び外泊する優二さんや竹内さんと別れて、ひとりで帰路につく。病院へ戻ったときには午後9時半を回っていた。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。

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2015-04-15 15:15 | カテゴリ:AA
(※断酒36日目/退院まであと7日)
 通勤中の電車でぶっ倒れてこの病院に入院することになったあの日から、今日でちょうど3ヶ月になる。生まれて初めての入院、しかも精神科というなかなか厳しい入院デビューだったが、何はともあれ僕は、この春から夏にかけてとても貴重な経験をさせてもらった。
 そんな入院生活も、残すところあと1週間だ。

 午前の回診の間に、平嶋さんが退院した。挨拶することはできなかったが、あとで聞いたところによると、迎えに来た奥さんは看護師さんの前で号泣していたそうだ。退院を前にして、最後は院内のAAにもこつこつ通うようになっていた平嶋さんだが、どんな思いで奥さんの涙を受け止めたのだろうか。この病棟には、誰かが退院してもなお何かを考えさせられる、目に見えないけれどもとてつもなく重い扉がそこかしこに立ちはだかっている。僕にはそんな気がするのだ。

 レクのミニバレーは3人対3人と、少し淋しいゲームだった。その後昼食を挟んで、稲村さん、木下さんと明日の炒飯祭りの買い出しに向かう。
 病院へ戻るバスを待つ間、少し話を聴いた。ふたりとも、AAや断酒会には積極的ではない様子だ。木下さんは、医者に行けと言われる範囲では仕方なく足を運んでみるという感じだったが、稲村さんに至っては「自力で断酒します」と強気だった。どちらもそもそも、自分がアルコール依存症と診断されたことに納得していないように見えた。

 夕方。カウンセリングの最終回は、田村心理士との雑談に終始した。最後に、これから僕が柏ノ丘病院で引き続きカウンセリングを受けるための登録手続きをして終了時間となった。退院後のカウンセリングは外来とは別に、病院内のカウンセリングセンターへ直接連絡して予約するシステムになる。もちろん有料なので、そうそう頻繁に利用できるものではないだろう。とはいえ、僕が健全なココロを取り戻すまでには、まだもう少し心理士さんの助けが必要かもしれない。


 夕食後のAAは、南町教会の「オオタカ」に参加した。僕は先日「ちかぷ」のミーティングで「あんたは依存症じゃない」と指摘され、困惑したことを話した。
 カイさんが挙手をした。僕の発言に答える格好で意見を言う。
「アルコールに支配されたことがあれば、それはもうアル中ですよ」
 大阪でひとり暮らしをしていた頃、あまりの極貧でガスや電気を止められ明日の生活に困っても、小銭をかき集めて1本のお酒を買うことをやめられなかった。そんな僕がアルコールに支配されていたのは間違いない。誰がなんと言おうと、僕はアルコール依存症であり、いわゆる「アル中」なのだ。
 山岳グループに所属していたというカイさんは、山登りに例えてこう続けた。
「普通の人は、山に登りたくて登りますよね。でもアル中は、山の頂上で飲みたくて、だから山に登るんです」
 その通りだ。アル中はいつも目的を履き違えている。僕はどうか。
 自分に自信が持てない僕は、人とコミュニケーションをとるためにお酒を飲んだ。そのうち飲酒は日常に入り込み、例えば映画を観るときも、料理をするときも、飲むことで楽しみを増したり、気分を乗せる手段として、いよいよ飲酒が欠かせなくなった。
 だけどいつしか、手段は目的に変わった。気がつくと、お酒がないと何もできず何も楽しめない、ただの病人になってしまった。山に登るという本来の目的は、どこかへ失くしてしまったらしい。

 僕は自分の行動について、個々の目的を見失ってしまった。すべてが「お酒を飲む」という短絡的な目的にすり変わり、目の前の、本来自分がやるべき行動を見誤ってしまっている。そしてそれは、周囲と共有できるはずの『愉しさ』の本質を奪っていく。
 みんなが笑い、豊かさを共有している間、僕はただ「飲んでいる」だけだったのだ。僕だけが別行動をとり、自ら周囲との距離を広げていったのだ。
 不安を覚えた。お酒ではない「本来の目的」を見つめられる自分にならなけらば。でも、退院までもう時間がない。いきなりそんなふうに自分を変えられるわけがない ――
 
「それでもいいと思う」
 誰かの言葉がよぎった。僕が初めてSSTに参加したときの、葉山看護師の言葉だ。
 あのとき、患者からいろいろネガティブな意見が出るなか、ホワイトボードにそれらを要約して書き出していた葉山看護師は言った。
「お酒に頼る理由として、自信がないとか弱いとか指摘できないとか、皆さん悪い部分を挙げてるけど、そういう悪いところも含めて、私はそれでもいいと思うんです」

 本当のところ、「それでもいい」の真意は今でもよく分からない。でも、少なくとも今日の時点では「焦らず、今の自分と向き合えればそれでもいい」と受け止めることにした。アル中の自分でも、今の自分としっかり向き合えれば、それでいい。


 午後9時前。優二さんと徒歩で病院に戻った。1階の正面玄関を警備員さんに解錠してもらい、中へ入る。ロビー横の廊下を抜けて病棟へ続くエレベーターで3階まで行き、さらに廊下を進んで5階へ向かうエレベーターに乗り、5ーB病棟へと戻る。この時間、院外AAから戻るときは何度となく、この人気のない薄暗い廊下を通ったものだ。
 途中、1階から3階へ向かうエレベーターに乗ったとき、優二さんが降りる階のボタンを押し間違えた。何のことはない、ただそれだけのことだが、にわかに優二さんがヘコみだした。
「やべえ、間違えた。オレ何やってんだろ、オレ…」
 意外だった。こんなことで、突然落ち込み始めるとは。僕がそばにいたから、格好悪いところを見せたことがその原因なのだろうか。だとしても、あまりに過剰ではないか。
「ごめん。オレ、こういうのダメなんだよ…。こういう失敗ですぐヘコむんだ」
 何がダメなものか。僕なんか、エレベーターのボタンどころではない。人生の選択を間違えてばかりだ。
「うっかりミスをするのは、人間らしくていいじゃないですか」
 これは本心だった。なぜなら僕は優二さんが落ち込むほど迷惑していないし、こんなちょっとした間違いは、むしろ微笑ましいとさえ感じるからだ。
「人間らしいか…。ありがとう、元気でたよ」

 やっぱりここは、面倒な人ばかりだ。でも、それがまた面白い。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


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