-------- --:-- | カテゴリ:スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2015-03-27 18:31 | カテゴリ:病棟の人々
(※断酒33日目/退院まであと10日)
 朝から蒸し暑い。クーラーのない5ーB病棟では扇風機が頼りだが、どういうわけかみんなつけるのを遠慮する。黒部さんなどは「オレ、扇風機の風ダメなんだ」と嫌がるので余計つけられなくなってしまう。

 昨日の夕方、隣町で飲酒運転による死亡ひき逃げ事件があった。海水浴場で飲酒した31歳の男が、同じ海水浴場から駅へ歩いて帰路に着いていた29~30歳の女性4名をはねて3名が死亡、1名が頸椎骨折の重傷を負ったのだ。被害に遭った女性は高校時代の同級生だったという。
 容疑者の男は前日深夜の居酒屋勤務終わりからビーチで夜通し飲酒していて、事故直後は女性の手当てをせずそのまま逃げ、コンビニでタバコを買い、それから 110番通報したそうだ。何を考えていたのか理解に苦しむ。「事故さえ起こさなければ(飲んでも)大丈夫だと思った」と供述している、と報じられていた。
 僕は運転免許を持っていないが、こういう事件のニュースを、特にこういう病棟にいながらにして耳にすると、やりきれない気持ちになると同時に、自分の飲酒が他人の命を奪ったり、自分自身の人生を破滅させることにつながる闇を感じる。それはとてもリアルな「恐怖」の感情にほかならない。


 今日の学習会は、1クール11回をひと周りして12回目となる。あの理科の教師みたいな男性心理士が『自分の考えを知る』というテーマでレクチャーを行った。4月、僕が2回目に参加した学習会で『私はどんな人?』という問いを記したプリントに回答を書かせて、小グループに分かれて発表し合うという、あの回の焼き直しだ。
 今回は手法を大きく変えて、

Q1:社長と副社長 Q2:時間とお金

 それぞれどちらが好き、または大切だと思うかを選び、小グループ内でその理由を発表し合うという形式だった。
 僕はQ1について、好き嫌いや能力の有無ではなく、単に正があって副があるという理由で〈社長〉を、Q2については万物に平等だと思ったので〈時間〉を選択した。米窪さんや浅尾さん、そして現在2階病棟に入院している峰口さんらと一緒になったグループの中からは「最終的に責任があるから社長」「後ろのポジションだけどそれなりに力のある副社長」だったり「お金がないと生活できない」「時間がなくても自分の作業をお金で人にやらせることができる」「時間は社会のシステムに関係なく存在する」といった意見が出た。根本的な主旨は前回と変わらず、他人の考えを聴いて己の考えを知る、ということなのだろう。
 学習会終了後、元小学校教員の倉持さんは、
「二者択一の設問としては、お題が良くないね」
 とダメを出していた。


「サトウさん、ちょっとお願いがあるんですが…」
 病室で、隣のベッドの浅尾さんから改まって声をかけられた。
「どうしました?」
「明日の昼食、僕の分も貰っていただきたいんです」

 1ヶ月の予定で入院していた浅尾さんは、本当なら今月15日に退院するはずだった。ところが、浅尾さんが経営している樹木伐採の会社の事業バックアップをしてくれている知人から、最低あとひと月は入院を延ばすよう「半ば強制」されているのだという。心臓の病気を患いICD(植込み型除細動器)を体内に取りつけて、入院までは節酒をしていた浅尾さんが、果たして僕らと同じく本当にアルコールに依存しているのか僕には少し疑問なのだが、会社に影響力を持つその知人は、病名が何であれとにかくあとひと月の静養を浅尾さんに迫っていて、さもないと事業から手を引くことを臭わせているそうだ。ご丁寧に、内科の治療入院が必要な場合にこの街で転院できる病院までピックアップしているという。
 この街から遠く 200㎞も離れた浅尾さんの地元には、アルコール依存の専門病院がない。もともと最初にこの柏ノ丘病院へ外来で来た際、院長からは月1回ペースの外来診察を勧められたが妹さんの強い希望で入院となった、という経緯がある。それだけに、浅尾さんの中では早く仕事に復帰したいという思いがあるようだ。
「他人の意見に左右されたくないし、これ以上入院していても、ストレスを溜めるだけですから」
 かといって、事業の支援を打ち切られると会社に大きなマイナスを与えるため、浅尾さんはジレンマに陥っている。担当看護師の丹羽さんはもちろんのこと、親子ほど歳の離れた僕にまで打ち明けるくらいなのだから、よほど悩んでいるのだろう。
 今日の夕方、院長との面談で相談した結果、病院としては本人の希望に沿って退院、その後は遠方からにはなるが通院を勧めるという結論になったそうだ。ただし浅尾さん曰く、その知人は妹さん夫婦を「抱き込んで」おり、最悪浅尾さんは「自分の健康も会社も顧みず、周囲の反対を押し切って退院した」という位置づけにされかねない。知人の顔を立ててあとひと月入院するとすれば、転院しても内科では進展が期待できないため、静養を目的として引き続き柏ノ丘病院で入院延長するほうが、ストレスも少ないだろうということだった。
 浅尾さんは明日、いったん地元の街へ帰り、知人や家族と今後どのようにするか話し合うという。次に病院に戻るのは22日の予定だそうだ。
 ここにもまた違った事情で、入院生活と奮闘している人がいる。

「そういうわけで、明日の昼は迎えに来た妹と食事することになりました。今からキャンセルはできないですし、廃棄になるくらいならサトウさんに食べていただきたいな、と」
 実際僕の食欲は旺盛で、最近は食が細くなったという浅尾さんから、やれバナナだの納豆だのごはん半分だの、いろいろ分けてもらうことが多い。こうして僕は、
「こうなったら、明日妹にいちばん高い昼食を奢らせてやります」
 と子供みたいに息巻く浅尾さんの、明日の昼食をまるまるいただくことになった。

 その浅尾さんが帰院する22日は、米窪さんが退院する。米窪さんも奥さんがもっと入院を希望している中、いろいろあったうえでの退院だ。
 そして、それより少し早い今週木曜には平嶋さんが退院する。このところ胃腸の調子が悪く、予定を1日遅らせての退院となる平嶋さんは、月末に息子さんの結婚式が待っているそうだ。入院当初とは別人のように、最近は院内のAAに通い始め、今後は院外でのAAミーティング参加を真剣に考えているようだ。
 ほかにも53号室では、予定を急遽大幅に繰り上げて、木下さんが今月いっぱいで退院するという。詳しくは訊いていないが仕事の都合らしい。黒部さんも詳細は未定だが、順当にいけば今月で退院の予定だ。相変わらず「オレは入院したら飲むよ」などと豪語しているので、ひょっとしたら家族の反対で退院が延びるかもしれない。
 黒部さんには明日から看護実習の学生さんがつくそうだ。米窪さんが、黒部さんをレクや料理に引きずり出そうとほくそ笑んでいる。


 病院事務局から、先月分の請求書を手渡された。102,000円強。7月の最終請求は退院日の前日にならないと概算が分からないという。夕方、優二さんと山形さんの3人でAA「カッコー」の会場へ行く途中、父にその旨を電話で伝えた。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


関連記事
スポンサーサイト
【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
コメント(0) | トラックバック(0)

管理者のみに表示する

トラックバックURL
→http://nyuin3months.blog.fc2.com/tb.php/91-a6b16ebb
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。