-------- --:-- | カテゴリ:スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2015-03-15 13:44 | カテゴリ:診察・診断・回診
(※5度目のスリップから22日目)
 今日からちょうど2週間後の今月17日の木曜、僕は入院からきっかり1クールを迎える。午前の渡辺先生の回診で、退院の日取りについて質問すると、先生から逆に訊き返された。
「さ、サードミーティングは終わりましたか?」
「あと2回ありますが、17日までには終わります」
「あ、そうですか。そ、それでしたら、ぐす、病院としてはですね、1クール終了をもって退院ということで問題ありません、ぐす」
 ぐす、ひっく、ひー、と鼻なのかどこなのか分からないところを鳴らしながら、先生はあっさりと退院を認めた。
「こちらで決めて構わないんですか?」
 はい、と先生は答えた。
 優二さんが唐突に退院を告げられたことに関して、ベッド待ちの患者が多いことが関係しているのでは、と言っていた。優二さんと僕とでは主治医が違うとはいえ、僕が抱いていた不安との温度差に拍子抜けしてしまった。
「いちおう、ARPでできることはすべてやったつもりです。でもやっぱり、不安が拭えないというか…」
「退院を前にして不安になるのは、ぐす、皆さん同じですよ。た、ただ、もしどうしてもということであれば、ぐす、1週間でも2週間でも延ばしていただいても、あの、結構です」

 父にも会社にも相談しなければならないが、最終的には僕が決めることだ。退院の日をどうするか、僕は来週の回診までに結論を出すことで先生の了解を得た。

「それから、今服用しているエビリファイなんですが、朝食後にときどき飲むのを忘れてしまうことがあるんです。でも、飲むのを忘れてもそれに気づかないくらい調子がいいときもあるので、頓服薬だけにしたほうがいいのかなって思うんですが…」
 できることなら、薬にはあまり頼りたくない。経済的な負担を少しでも減らしたいという思いも正直ある。実際のところどうなのか、医師の意見が欲しかった。
「エビリファイは、い、いちおう、72時間は残りますので、あの、1回飲み忘れても前日のが効いているケースもあります。でも、ぐす…そ、そうですか。じゃあちょっと、お薬切ってみますか?」
 訊き返されて、どうしたらいいか途端に分からなくなった。診察室に同席していた千葉看護師が口を挟んだ。
「普段の生活に大きな支障がないなら、いきなりお薬切っちゃうんじゃなくて、もう少し服用を続けてみたらどうですか?」
 うん、それがいい。そうしよう。僕はもうしばらくエビリファイの服用を続けることにした。


 診察を終えて体育館へ向かうと、ミニバレーが既に始まっていた。今日は人数が少なく、4対4のゲームだ。優二さんや町坂さんら常連の姿がない。患者は利根川さん、草刈さんなど4人だけ、あとの半分は牛本主任や大田看護師ら病院スタッフだ。植中さんは先日登山をしていたら足を痛めたそうで、ゲームには参加せず得点係をしていた。
 僕は主任と交代して11時半のレク終了まで汗を流し、シャワーを浴びた。


 3時からのSSTまでの間、デイルームで牛本主任に退院の日について相談した。勝瀬さんは退院後のデイケア参加に積極的な様子だったが、あれは病院側から勧められたことらしい。僕にもデイケアは必要なんじゃないだろうか。
「デイケアは生活保護で求職中の人向きのもので、空いている時間を飲まないようにする意味合いが強いんです。サトウさんにはデイケアよりも、とにかく今まで通り自助グループへ通うことが何よりだと思いますよ」
 生活保護受給者には助成金や免除があるのだろうが、デイケアにはもちろん費用がかかる。勝瀬さんは生活保護でも求職中でもなく立派な美容師さんなのだが、とにかく僕の場合、そういうことらしい。

 患者からの話だけでは、とかく情報が偏りがちだ。僕はこの入院生活でほかの患者からの話を聴くうち、病院というものはどこも一律利益主義に走るものだという見方に感化されていたようで、この柏ノ丘病院も本当のところは、

①やたらと薬を出して診療報酬を増やす
②有料のプログラムやリハビリを必要以上に勧める
③何でも依存症にしてしまい入院させる
④金にならない入院患者は早めに出て行ってもらう

 …などという傾向にあるんじゃなかろうか、と疑心暗鬼になっていなかったわけではない。もちろん病院といえど経営が成立しなければやっていけないのだろうが、もう少し病院を信頼してもいいと、今さらながらに思い、同時にちょっぴり反省もした。

 牛本主任が続けた。
「前に、サトウさんはもう少し入院したほうがいいって言いましたけど、あれは僕の個人的な意見ですし、サトウさんのお仕事のこともあるでしょう。17日に退院して、ご自宅で少し休んで8月からお仕事を再スタートさせるのもいいタイミングですよ」
 入院を来月まで先延ばしにはしたくない。かといって、1クールきっかりの17日に退院するのも不安だ。でも、仮に8月1日から仕事に戻れるとして、退院と仕事復帰の間のインターバルは欲しい。
「1週間ほど延ばして、24日か25日に退院というのは中途半端ですか?」
「それでもいいと思いますよ。ただ、25日の金曜よりも24日の木曜日をお勧めします」
「どうしてですか?」
「退院当日というのは、最初にスリップしてしまうリスクが高い日なんです。そこに週末が重なると、ちょっと危ないですね」
 なるほど、そういうものか。特に僕のケースを見透かしたようなアドバイスだ。

 もうひとつ、お願いしてみた。
「あの…実家の父を呼んで、面接というか、説明をお願いしたいんです。1クールが終了しても、僕が完璧にお酒と縁が切れたわけじゃないですよね。家族が依存症っていう病気に誤解を持ったままで、退院後に万一僕がスリップして『治ってねえじゃねーか』ってことになってもマズいですし…。でもそれを僕の口から説明しても、再飲酒する言い訳にしか聞こえないんじゃないかと。それで、やっぱりそういうことは病院の方から説明していただいたほうが助かります」
 これは、かねてから僕が頼みたかったことだ。
「それは構いません。先生の回診の日に合わせるのがいいと思います。17日がちょうどいいですが、僕が休みなので…来週の木曜、10日はいかがですか?」
 病院での僕の様子を間近で見ている、担当看護師の牛本主任が同席しているほうがありがたい。それに主任は、僕が最初に実家へ外泊した際に電話で直接父と話している。

 こうして僕は、退院の日を7月24日で調整することに決めた。4月17日の入院から数えて、99日目での退院だ。


 今日のSSTは、これまで参加していた勝瀬さんと周さんが退院したため、患者4、5人ほどの淋しいものだった。新聞紙の上に立ってじゃんけんをし、負けるたびに新聞を半分に折っていくというゲームでウォームアップしたあと、飲酒欲求を招くシチュエーションでいきなりロールプレイをすることになった。
 僕は自分のついていけない話、苦手な話になると勝手に孤立感や劣等感、疎外感を強めて自分の殻に閉じ籠ってしまい、それが飲酒欲求の引き金になることが多い。シラフで他人とコミュニケーションをとることができない大きな問題なのだが、先週のカウンセリングで田村心理士から「それこそSSTで相談してみたら」とアドバイスされたのを受けて、金曜の深夜に夜勤だった牛本主任にもそのことを話していた。ところがいきなりロールプレイをやってみるというので、勝手が分からず戸惑ってしまった。
 意図してなのかどうか、飲酒欲求が起こるシチュエーションを最初に尋ねられた僕は、ロールプレイで再現するのは微妙だな、とは思いながらも僕の問題を話した。
 疎外感や劣等感を感じる卑屈さをどうにかしたい、と切実に思うが、「飲酒欲求に打ち勝つ」という今日のSSTの主旨とは少し違う気がする。とにかく、牛本主任と米窪さんと僕が3人で雑談しているというシチュエーションで、即興のロールプレイが始まった。僕がついていけない車の話題になり、僕が孤立を感じたところで、葉山看護師扮する「欲求さん」が僕に飲酒を勧める言葉を囁く。
 なんともしょっぱい寸劇になってしまった。ただ、僕が話題を変えようとあれこれ喋りだしたことで、葉山さんは「飲酒欲求が口を挟む余地がなかった」と感想を言った。また、ついていけない話題でも知らないなりに乗っかろうとしたところ、米窪さんから「好きなものの話題に合わせてくれて、嫌な気がする人はいない。相手を引き込もうとするもんだよ」と言われた。
 僕にとって、ヒントは案外簡単なところにあるような気がした。

 SSTは今日も4時を回ったので、中座して4時10分からカウンセリングを行った。僕は田村心理士に先ほどのSSTの件と、それから先日火曜の深夜に外泊届を詰所へ持って行って注意され、ヘコんだ件を話した。カウンセリングに具体的な回答などない。田村心理士は「そうなんですか?」と相槌を打ちながら、ただ僕の話を聴いてくれた。
「次回までの課題はありますか?」
 ひと通り話し終えて、僕が尋ねた。
「サトウさんは、何か課題が欲しいですか?」
 笑顔で訊き返された。
「いえ。また来週、1週間で起きた事件の報告をします」
「事件ですね、ふふ。分かりました」


 夕食後。優二さん、利根川さん、関根さん、山形さんと南町教会の「オオタカ」へ行った。ミーティング前に父へ電話で24日の退院を伝えて、10日の回診に同席してもらうようお願いした。会社にも連絡したが、担当マネージャーが休みのため改めることにした。
 今日のミーティングで、優二さんが正式にこのグループのメンバーになると発表した。これで男性5名、女性7名となる「オオタカ」は、これまで50代のカイさんが男性陣の最年少だったそうだが、優二さんの加入で男性陣の平均年齢は大きく下がることになる。
 今月10日に退院して地元へ帰るという関根さんは、今日を入院中の院外自助参加の最後にすると決めていて、そのことをミーティングでみんなに伝えた。
 10年近く断酒していた関根さんが今回スリップした直接の原因は、数十年ぶりに偶然再会した高校時代の彼女との浮気だったという。奥さんとはなかなかの修羅場だったそうで、浮気についてはいちおうかたが着いたとのことだが、これからまだまだ肩身の狭い思いが続くのは間違いない。
 それでも関根さんは、ミーティングの場でこう語った。
「地元の町では、AAで活動しているのはふたりしかいないそうなので、これからは嫁とミーティングしようと思います。そのことを話したら『今さら別れる気なんかないから、何でも相談して』と言ってくれました」
 今日はこの町で暮らす、前の奥さんとの間の娘さんと一緒に食事をしてきたそうだ。家族にも、仕事にも、そしてお酒の問題にも正面から向き合う関根さんが、地元の豊かな自然を背景に大好きな釣りを心から満喫できる日は、そんなに遠くない気がする。

 僕は僕で、退院が今月24日の見通しとなったことを報告し、遅ればせながら入院中のスリップについて、余すところなく話した。いわゆる『棚卸し』というやつだ。


 AA終了後、僕はみんなと別れてひとり実家へ帰った。ひとりで夜の道を歩くときにこそ缶酎ハイの1本でも飲みたくなるのだが、堪えることができた。実家に着いたのは9時前、思っていたよりも早かった。
 父も母もまだ起きていたが、母はなんだかぼーっとした様子で、父は父で神経質そうだった。時おりつく父の溜め息で、僕は自分の気分が一気に下降していくのが分かった。

 退院すると、これが日常なのだ。誰も悪くないし、誰のせいにしてもいけない。ここで負けては、絶対にいけないのだ。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


関連記事
スポンサーサイト
【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
コメント(0) | トラックバック(0)

管理者のみに表示する

トラックバックURL
→http://nyuin3months.blog.fc2.com/tb.php/80-47330ec5
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。