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2015-03-07 12:34 | カテゴリ:院内生活
(※5度目のスリップから19日目)
 満床の5ーB病棟では、退院する人と新たに入院する人の入れ替わりが激しい。退院待ちで待機している患者も多いそうだ。
 52号室では、料理でお世話になった中山さんが退院した。定年まで仕事を勤めあげて会社を退職し、現在は独り暮らしという中山さんだが、
「中山さんみたいな人は、もう飲んでもいいんじゃないの?」
 と、米窪さんが元も子もないことを言っていた。
 僕が入る53号室でも、周さんが退院した。外泊から奥さんと帰院して、そのまま荷物をまとめての退院だった。中国語と日本語の混じった会話で、奥さんとふたりで声をあげて笑っていたのが印象的だった。
「中国語で僕らの悪口言ってたりして」
 病室で周さんとお別れの挨拶をして見送ったあと、米窪さんに言った。
「お前らアル中と一緒にすんな、ってか」
 もしそうなら、それはそれで面白い。

 8人部屋の53号室はこの時点で、ベッドにふたつの空きができた。入口から向かって右手前廊下側から奥へ、黒部さん、僕、米窪さん、高津さん。左手奥の窓側が周さんの使っていた空きベッド、順に手前へ平嶋さん、浅尾さん、そして勝瀬さんが使っていた空きベッドという並びだ。
 僕は勝瀬さんの使っていた廊下側のベッドに移りたいと思っていた。この場所は共用ロッカーが置いてあり、その分スペースが多少広い。また、廊下側の左右ふたつのベッドだけ、なぜか個人用クローゼットが観音開きの大きなサイズになっていて、これまたスペースが広くなっている。それはそれでプラスなのだろうが、入口付近のこのベッドはデイルームや詰所に近くて騒々しいということもあり、寝付きの悪い患者には敬遠される場所でもある。
 僕は退院が近くなり、まただんだんと不安や焦りが強くなってきた。騒々しいのも限度はあるが、静か過ぎるのは僕にとってなんだか無性に心細い。気分をリフレッシュする意味もあるので、わがままを承知で金曜の夜に夜勤の牛本主任へ相談したところ、師長に許可を貰うようにとのことだった。

 周さんが病院を出たあと、空いたばかりの窓側のベッドがすぐに新しい患者を迎えるべく整えられた。廊下側の空きベッドはそのままだ。病室に来た前上看護師に訊いてみた。
「今日のお昼までに、すぐに新しい患者さんが入ります。サトウさんが廊下側のベッドに移動したがっているのは主任から聞きましたから、新しい患者さんはこっちの窓際のベッドにお迎えしようと思って。師長はもうすぐ来ますから」
 僕は正直、僕の希望を牛本主任がそこまで気に留めてくれているとは思っていなかったので、その素早い配慮に感謝した。その直後、53号室には新しい患者が入って来た。
 倉持さんという50代後半の男性患者は、小学校の元教員だそうだ。柏ノ丘病院には以前も入院歴があるという。窓側のベッドを案内され、小声で「あ、良かった…」と呟いたのが聞こえた。

 昼食前、沼畑師長が僕のところにやって来た。既に申し送りで聞いているらしく、僕から改めてお願いする前にベッドの移動を許可してくれた。
 僕は入院初日から文字通り寝食を共にしたこのベッドで、最後の食事をした。昼食のメニューは、入院7日目に僕がカルチャーショックを受けたカレー。ビーフではなくチキンカレーだった以外、丼ごはんで出てくる定食スタイルは変わらない。もちろん僕はもう何も驚くことなく、スプーンを駆使して小慣れた要領で、ごはんをカレーで少しずつさらって食べた。僕には少し辛口だったけれど、旨かった。

 移動というのはベッドごと入れ替えるため、厳密に言えば「寝食を共にするベッド」は退院まで変わらない。病室の人たちがわらわらと手伝ってくれてベッドを入れ替え、クローゼットの中の私物を移して引越しは完了した。
 思った以上にベッド周りのスペースが広い。これはいい感じだ。観音開きのクローゼットは、これまでの片開きのそれに比べてさぞかし収納量も倍近いだろう、と思ったら、奥行きがない。これまでのは70㎝ほどはあったのに、こちらのクローゼットはその半分程度だ。ハンガーが真っ直ぐかけられない。間口だけは広いので、ハンガーを斜めにかけることになる。おかしな隙間ができるので、電池やら飴やら剃刀の替え刃やら、こまごましたものをそこへ押し込む。いまいち美しくない。
 食事トレーなどを置く引きテーブルは、クローゼットの幅に合わせて65㎝とほぼ倍近くなったが、あろうことか引き出せる長さが30㎝もなく、トレーがぎりぎり置ける程度だ。それ以上引くと下の引き出しとの境目をつなぐケコミ部分の角材が外れてしまう。どういう設計になっているのか。
 ともあれ、自分から希望した以上文句は言えない。今日からここが僕の空間だ。もうカーテンを閉める必要は ―― たぶんないと思う。


 午後の月曜学習会は『④ 食事と身体』とのタイトルで、管理栄養士によるレクチャーが行われた。この栄養士さんは、米窪さんに肝臓食の説明をしているのを見たことがある女性だ。『肝臓を守る食事』と題されたプリントとスライドで、アルコール性肝障害や肝臓の働き、肝障害に良い食品についての解説を、最後に季節がら食中毒予防について説明があった。
 僕は今日も最前列の窓際に座り、眠気と闘いながら30分ほどの学習会に耐えた。3階病棟へ移った和代さんが、最後の最後に手を挙げてどうでもいい質問をしていたが、どうでもいいのでよく聞いていなかった。
 僕の学習会は来週で最後だ。


 今日の自助は、西町の「カッコー」に参加した。向かったのは優二さん、利根川さん、山形さん、関根さんと僕の5人だ。僕は大阪のテーマパークで夜勤をしていた頃に、酒で失敗して仕事をクビになった話をした。明日は19丁目教会の「つぐみ」へ3回目の参加予定だ。焦らず、徐々に慣れていこう。
 帰りの道すがら、木曜日に松ノ宮町の町民センターで行われる「ホオジロ」というグループのAAに行かないかと、優二さんから誘われた。「ホオジロ」は院内AAにもメッセンジャーを送っていないし、僕は足を運んだことがない。会場となる松ノ宮町の町民センターは、西町駅から電車で数駅行ったところにある。
 僕は木曜は実家に近い南町教会の「オオタカ」へ参加したあと、そのまま実家に外泊しようと考えていたが、「行ったことのないグループは、できるだけ今のうちに行ったほうがいい」と言っていた優二さんの誘いに従うことにした。退院までの残り日数で、どれだけの自助グループへ足を運べるだろうか。


 髪を切ったことで、看護師さんからの「受け」が俄然良くなったような気がする。褒められるのに慣れていない僕は、褒め上手の看護師さんの言葉にいちいちうろたえてしまう。それにしても、今までいかにむさ苦しかったかということだ。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


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【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
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