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2015-03-03 19:47 | カテゴリ:料理
(※5度目のスリップから16日目)
 今日は勝瀬さんの退院の日だ。なんだかナーバスになっている勝瀬さんに「何時頃に出発ですか?」と訊くと、
「まだ分かんないよ。カネ下ろしに行ったりとか、オレも結構忙しいんだ」
 勝瀬さんはベッドに寝転んで漫画を読みながら、僕にそう言った。

 午前中、一宮OTから昨日のSSTでのことを謝られた。演劇の稽古で使うトレーニングにはSSTのウォーミングアップにも応用できるものがあるかもしれないという、以前に僕と一宮さんの間で話に登ったことを彼女が牛本主任へ伝えたところ、
「それじゃあ次のSSTのウォーミングアップはサトウさんに進行してもらいましょう」
 と主任が言ったので、昨日のような運びとなったそうだ。
 昨日のあれは、牛本主任のムチャぶりだった。


 10時半からは、8人の患者と4人の病院スタッフとでシーフードカレーづくりが始まった。僕はOT研修生の女の子と、稲村さんという最近入院した50歳前後の男性患者と一緒にチャパティづくりを担当した。
 仕事の都合で中東のどこだかの国に赴任していたという稲村さんは、毎朝なんだか凄い器具を使って大層なコーヒーを煎れて飲んでいる。焙煎した豆を買ってきて、自分で挽いている。さすがにそこまでではないけれど、優二さんも頻繁に使い捨てのドリップにお湯を注いでコーヒーを飲んでいる。そうしたとき、デイルームは香ばしいいい匂いに包まれる。僕はコーヒーについては、インスタントにミルクと多めの砂糖を投入して飲むのが好きだ。こだわりはない。他人事だから思うのかもしれないが、そんなこだわりの飲み物がほかにあっても、アルコールに依存するのは不思議な気がした。それ以前に稲村さんの場合、そもそもイスラム教徒の多いアラブの国でお酒なんか飲めていたのだろうか。
 あれこれ訊きたかったが、チャパティづくりが余計な雑談を許してはくれなかった。
 生地を発酵させる必要のないチャパティは、全粒粉と塩と水と少量のサラダ油でつくることができるので、ナンよりも手早くできるらしい。全粒粉が手に入らなかったため強力粉での代用となったが、僕ら3人は格闘しながらひたすら生地をこねた。
 途中、丸投げする割にあれこれと口を挟んでくる洋子さんにまたしてもムッとしてしまった。気分もヘコみ、もう料理は今回で最後にしようとまで思ったが、洋子さんのほうが先に退院するため今日が彼女の最後の料理となっていたことをあとで知った。
 今回参加した患者のうち、中山さんも今日で退院のため、このままでは次回からまた人数が減ることになる。洋子さんのあとを引き受ける料理グループのリーダーを誰にするか、食後に話し合いが行われた。
 新参加の稲村さんと須藤さんは、入院して日が浅く勝手が分からないということでパス、今回復帰した節子さんは体調が不安定でお願いできない。僕はといえば木曜に行われる南町教会での自助参加のあと、徒歩で向かえる実家に外泊して金曜昼までに戻るという練習を優先したいので、来週の料理参加じたいを保留した。予定通り1クールちょうどで退院となると、金曜日はあと2回しか来ないのだ。
 必然的に、リーダーは草刈さんか山形さんのどちらか、ということになるのだが、草刈さんは所用のため食後すぐに中座してしまっていた。山形さんは来月から患者会の会長を務めるため、負担はできるだけ軽くさせたい。
 結局、後ほど草刈さんにお願いして、どうしても固辞された際は山形さんにリーダーを引き受けてもらう、ということに半ば強引に決まった。
「何でもかんでもオレかよー」
 とボヤくだけボヤいていた山形さんだが、少なくとも患者会の会長については自分から立候補していたと聞いた。何にせよ、普段から背中が痛いと言いつつミニバレーで汗をかいては死にそうになり、相変わらず日中は眠剤の影響で眼は虚ろ、呂律も回っていない山形さんは本当に大丈夫なのだろうか。
 ちなみに今日のカレーの出来だが、貴重なシーフードの存在感が大量のジャガイモに見事に負けていて、要するに「ごめんなさい」程度にイカだのエビだのがチラチラする具合だった。とはいえ、ブレンドしたルウでつくったカレーの味は旨かった。草刈さんお得意のあり合わせスープも節子さんのポテトサラダも美味しかったが、洋子さんのコーヒーゼリーはうまく固まらず、結局リベンジとはいかなかった。
 そして僕らがつくったチャパティだが、これはもう完全に惨敗だった。「不味くはないが旨くもない。それでいて大量にある」という、最も避けたい惨事を生んでしまった。数十枚はできてしまった。もの珍しさから、みんな1枚は食べてもそれ以上手をつけない。僕はつくった手前、意地でもチャパティに食らいついたが、食べても食べてもチャパティ。おまけに白ごはんもあるのだ。腹チャパティ胃チャパティ。何を言ってるのかよく分からないが、要はそれだけチャパティを頬ばったということだ。
 あとで知ったのだが、チャパティの生地というのは1㎜くらいに伸ばすのが正解らしい。僕らのは「宅配ピザのクリスピーじゃないほう」の生地に似ていた。誰も本場仕込みのチャパティを食べたことがないのだから仕方がない。ともあれ、ご馳走さまでした。


 料理の時間に、勝瀬さんは既に病院を後にしていった。ちゃんとしたお別れができなかったが、これは勝瀬さんの狙いだろう。これからデイケアに通う勝瀬さんだが、またいつスリップして病院に戻るかも分からない。華やかな見送りは恥ずかしいだけで、それを嫌う患者は勝瀬さんに限ったことではないのだ。


 チャパティで膨れあがったお腹をおして、7階アトリエの創作へ向かう。退院までの日数を考えると、この時間もあと3回しかない。
 一宮OTが用意してくれた白絵具と極細筆で、革細工のカードケースに手彫りしたコンビニチェーンのロゴを時間いっぱいかけて縁取りしたが、最後に再度ニス塗りしたら、甘乾きだったため白がほとんど消えてしまった。何やってんだか。次回はもう少し彫りを深くして再チャレンジする。

 夕食後は院内AA「はましぎ」に参加した。メッセンジャーは男性1名、ほかに浅尾さん、須藤さんと僕の計4人でのミーティングだ。僕以外は3人とも、もうすぐ60歳という同世代トリオだ。
 今日のテーマはいつかも挙がった「認める」。僕は改めて入院に至った経緯と、自分がいまだ節酒でいけると思っていること、そしてその考えは僕が自分を依存症と認めていないということではないかと最近気がついた旨のことを話した。
 最後にメッセンジャーの男性からコメントをいただいた。AAのテーマミーティングでは珍しいことだ。
「焦らないでください。『今日は飲まないでいける』と思ったときだけAAに来ていただいてもいいんです」

 焦りは敵だ。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


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【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
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