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2015-02-13 12:25 | カテゴリ:レクリエーション
(※5度目のスリップから8日目)
 昨夜からまた、歯茎が腫れて痛みだした。実家から持って来て冷凍しておいた保冷剤を当てて寝たが、朝になっても痛みは治まらず、ラジオ体操どころではない。詰所で夜勤明けの前上看護師にお願いしてロキソニンを貰い、朝食に挑む。ついでに久しぶりに血を採られた。定期的な採血だ。
 今日の朝食はレンコンの金平とマグロの甘煮。よりによってレンコン。小動物のように前歯で噛みしだき、時間をかけて食べる。この病院の食事は基本的に美味しいのだが、ときどき今日のような「酒のつまみ」を思わせるおかずがかくも挑発的に登場する。僕ら患者はそのおかずを白ごはんと共に、複雑な思いで食べなければならないのだ。

 午前の渡辺先生の回診は10時を回ってから始まったが、月曜にスリップ告白の件で話をしていることもあり、僕は比較的早くに終わった。退院の近い勝瀬さんや米窪さんも、僕と同じく森岡先生から渡辺先生に主治医が変わった患者だ。僕の診察が終わっても、勝瀬さんは「いろいろ相談もあって長くなるだろうから、俺は最後でいいよ」と、デイルームで吾妻ひでおの漫画『アル中病棟』を熱心に読みふけっていた。これは森岡先生が奨めてくれていた、アル中漫画家の入院体験記だ。


 11時半を少し過ぎたが、今日こそとの思いで体育館へ向かう。バレーコートには、丹羽看護師を含めた計7人しかおらず、ちょうどいい具合だ。草刈さんや町坂さんに声をかけられたが、例え前回のように誘いがなくても自分から行くつもりだった。いよいよ初のミニバレーだ。
 僕は草刈さん、町坂さん、植中さんとのチーム、対するは優二さんや小千谷さん、丹羽看護師らのチームだ。ミニバレー用の大きなボールは想像以上に軽く、僕のプレーは決して上手いとはいえなかったが、それなりにレシーブで動き、跳びはね、汗をかいた。3ゲーム、1ー2で敗れたものの、楽しかった。
 何よりも、レク終了後に喫煙室で、みんなとの雑談に加わることができたのが喜びだった。草刈さんには「ナイスファイト」、優二さんからは「次からは欠かせないね」と声をかけてもらったのも嬉しかった。ただそれだけのことだが、僕にとっては価値のある時間だった。


 午後、勝瀬さんと米窪さんの3人で買い物へ出た。病院バスの時間を逃したので、歩いて駅前のショッピングモールへ行き、帰りにスーパー柏ノ丘店へ寄るというコースだ。途中、この週末に再度実家へ一時外泊することを父へ連絡した。父は「うん」とだけ言って了承した。
 駅前のショッピングモールでは、100円ショップで米窪さんから木製クラフトを買うことを勧められた。型を抜いて組み立てる、子供向けの工作キットだ。動物やら乗り物やらいくつかの種類がある。米窪さんは以前この木製クラフトのうち、ティラノサウルス的な恐竜を作っていた。型のサイズがアバウトで、パーツが合わずうまく組み立てられないとぼやいていたが、出来上がったそれは 100円にしてはなかなかのものだった。暇潰しにはちょうどいいかもしれないと思い、僕は比較的簡単そうなものをふたつ、イルカと飛行機のキットを買ってみた。
 店内にいるうち、何だかお腹の調子が悪くなり、猛烈な眠気に襲われ始めた。薬のせいだろうか。今日は朝食と夕食のそれぞれ1時間前にロキソニンを1錠ずつ、朝食後にエビリファイを1錠飲んでいる。エビリファイを飲み始めてから、眠気のほか若干お腹のゆるみは感じていた。ロキソニンを頓服で飲んでいることは、渡辺先生にちゃんと伝わっているのだろうか。それとも薬に関係なく、毎晩ベッドに入るのが遅いため、単に寝不足なだけなのだろうか。
 今日は午後4時からカウンセリングがある。ショッピングモールを出る前に、既に3時を過ぎていたので、僕はスーパー柏ノ丘店には寄らず、ひとりで先に病院へ戻ることにした。なんとか4時直前に病院へ着いたが、病棟の詰所には既に田村心理士が来ていて、おそらく僕のであろう、カルテファイルに目を通していた。
 今日は院内AAが先方の都合で中止になり、僕は南町教会の「オオタカ」へ行くつもりで申請をしていたが、キャンセルすることにした。だからこのカウンセリングが、今日僕がやるべき最後のことになる。


 3階の、いつもの心理面接室で、2回目のカウンセリングが始まった。僕はまず、火曜日のレクでの失敗と、今日ミニバレーに参加できたこと、ベッドサイドのカーテンを開けることにも特に問題はなかったことを報告した。ただこれは、カウンセリングという時間をつくってもらい、課題を見つけて背中を押してもらったからこそできたことだ。カーテンの件にしても、「カーテンを開ける」という物理的な行為に問題はなかったが、僕の心の中では依然カーテンを閉ざそうとするという問題がある。あくまで、今のところ行動としてクリアできたということに過ぎないのだ。
 僕は先日の部屋ミーティングで車の話題になったときに感じたことを話し、それから、僕が再度スリップを繰り返した経緯と、自分から牛本主任に申告した理由についても話をした。

 途中、「そうなんですか?」と相槌を打ちながら話を聴いてくれた田村心理士が、僕に言った。
「サトウさんは、具体的な課題として挙げたバレーとカーテンの件を行動に移しましたが、それは自分から集団に関わっていくための手段ですよね? 続けていくことにも意味はあると思いますが、バレーとカーテン、どっちを続けますか?」
 先週と同じように少し意地悪そうに訊ねられたが、僕は迷わず「両方」と答えた。
「分かりました。私がサトウさんの話を聴いて思うのは、ご自身で課題をつくって意識的に取り組んでいるのに、バレーでは私が背中を押したから、とか、カーテンの件では心の闇について仰ったり、ご自身の努力をご自身で認めないように聞こえます。どうしてなんでしょうか」
「それはたぶん…自分に自信がないことと、失敗が怖いからだと思います。次にバレーをしたときには嫌なことが起きるかもしれないし、スリップを繰り返したように、些細なことで傷ついて、またすぐにカーテンを閉ざしてしまうかもしれません。それが怖くて、やっぱり次から次へと予防線を引いておくというのか…。もっと図太くなれればいいんですけど」
 指摘されたことはその通りだ。僕は思ったことを正直に言った。
「その割には、なかなか図太いことをされてますよね。スリップにしても大胆ですし、あれだけ悩んでいても、バレーやカーテンの件をいきなり行動に移してしまうし。サトウさんの中に、まったく正反対の面が隣り合わせになっているように思います」
 振り返って、自身でも大胆不敵だったと思うことはある。縁もゆかりもない大阪の大学を受験することを選んだり、そもそもこんな自分が芝居をやっていたことが、大胆極まりない。
「それと、集団では話せないと仰りながら、今はこうやってちゃんと話をされている…というより、話が止まらなくなるくらいですよね。ここにも正反対の面を感じるんですが」
「それは…」
 僕には思い当たることがある。
「自己顕示欲っていうんですか、『自分を見て』っていう思いが強いんだと思います。1対1でこうして話していると、否が応でも僕を見てくれますが、集団になると自分の存在がぼやけてしまうっていうか。ある部分について、僕よりはるかに高い能力を持った人がいれば、『自分を見て』が通じなくなるので、自分から土俵を降りてしまうんです。自分でカーテンを閉じて距離を置く。そういう自分がとても嫌になります」
 僕のこの精神構造は、歪んだコンプレックスが強く関係している。
「なるほど。それでまた、自己否定に向かってしまうんですね」
「だと思います」
「先日、今日の日程をお伝えに病室へお邪魔したとき、カーテンが開いてるのに気づきました。バレーにしてもそうですが、サトウさんが現状を変えようと努力されているのを、私はそれなりに理解しているつもりです。次は、バレーに参加したりカーテンを開けるという『手段を続ける』ことで何を感じるか、その辺りを聴かせてもらえますか?」

 僕がバレーに参加できたことで、先週挙げられた「料理とバレーの違い」については話に上らなかった。実際、僕はすっかりそのことを忘れていた。
 次のレクでもバレーに参加し、カーテンを開け続けること。失敗したと感じたときに、何が見えてくるのだろうか。

 終了間際に、カウンセリングとは直接関係ないが気になっていた質問をしてみた。
「田村さんは、いまどのくらい患者さんを受け持っているんですか?」
 守秘義務に当たるのだろうか。具体的な人数については回答を避けられてしまった。
「さあ…数えたことがありませんから。でも、ドクターが担当される患者さんの数には及びませんよ」


 夜、病室で勝瀬さんから訊ねられた。
「カウンセリングって、1回どのくらいの時間でやるの?」
「週1回で、50分です。だいたいいつも5分くらい押しますけど」
「俺も今、カウンセリング受けたいよ」
 と、米窪さんが割り込んできた。米窪さんはついさっきまで、奥さんと電話で長いこと話をしていた。
 退院が近づくと、家族を交えて病院側と面談が行われる。勝瀬さんも米窪さんも、近々その面談が予定されている。患者サイドとして、自分の意向と家族の意向にズレがないよう、前もって話し合う必要がある。他愛のない話やふざけた話をする中でも、最近ふたりがナーバスになっているのをとても感じている。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


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【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
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