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2014-08-02 10:00 | カテゴリ:スリップ
(※再スリップから3日日)
 眠気に勝てない。朝食も昼食も夕食も、すべて看護師さんに起こされて食べた。
 土曜日は院内のARPも特にないため、みんな思い思いに「休日」を過ごす。毎日が休みだといえばそうなのだが、平日はこれでなかなか忙しいのだ。患者の症状にもよるが、薬を飲んでのARPは、結構な負担になっている人もいるのではないか。
 週末は自宅に外泊する患者も多く、53号室でも勝瀬さん、周さんが今週も一時帰宅した。毎週末に自宅に帰っては「俺の居場所がない」と落ち込んで戻って来る勝瀬さんに至っては、今回こそは明るい兆しを見つけられることを願わずにはいられない。

 昼食後、散歩に出ることにした。今日は風もあり外は涼しそうだ。午後1時の病院バス出発まで喫煙室で時間を潰していると、利根川さんに声をかけられ、話し込んだ。
 元競輪選手の利根川さんは、15年のプロ生活で通算16回の優勝経験があるそうだが、競輪にまったく詳しくない僕にはそれがどのくらい凄いのかさっぱり分からない。優勝というくらいだから、なかなか凄いのだろうが、ただ、僕が本当に凄いと感じたのはその後の人生のほうだ。
 現在50代前半の利根川さんは、競輪の世界では中野浩一の少し後輩の世代にあたるそうだ。お酒に依存するようになった理由は「とにかく遊びたかった」という通り、賞金を飲み代に注ぎ込み豪遊していたそうだ。選手としてのピークを過ぎた30代には二日酔いのままレースに出たり、ひどいときにはウイスキーを飲んで出場したこともあったという。
 任意引退という形で競輪協会を事実上クビになり、土木関係の仕事に就いたが、アルコール依存はエスカレートしていき、やがて仕事もできなくなってしまった。入院と中間施設、スリップの繰り返しで、4年前に環境を変えるべく縁もゆかりもないこの街にある中間施設に入所したのだが、これは僕が大阪から戻って来たのと同じ時期だ。それから再起を図っていた昨年、よりによって自転車でひったくり事件を起こして逮捕され、いろいろあって再び入院の措置となったという話だ。なんというか、キリギリスを彷彿とさせる見事なまでの転げ落ちようには、言葉がない。
 現在はパニック障害と強迫神経症に悩まされ、大量の処方薬で持ちこたえているというが、「過去に戻りたい」という不可能な願望に縛られたり、例えば戸締りを何度しても、ガスの元栓を何度閉じても、強烈な不安に襲われて安心できないといった、明らかに生活に支障をきたす症状が治まらないのだという。
 退院の見通しは立っていない利根川さんだが、それでも院外のAAには多く足を運んでいる。話を聴く限りでは、精神的な症状は僕も似たようなところがある。何をもってして「回復」といえるのか、判断が難しいところも実に厄介なのだ。
 利根川さんは普段はとても穏やかで優しく、話好きな人だ。ただときどき、暗い表情で深いため息をつきながらうつむいていることがある。
「僕は土曜は完全休養に決めてるんですよ。明日はまた院外のAAに出かけます」
 そう言うと、利根川さんは静かにタバコの煙を吐き出した。

 利根川さんの話に聴き入ってしまい、1時のバスに乗り遅れてしまったので、徒歩で坂を下りてスーパー柏ノ丘店方面へ向かった。目的は最初から決めていた。公園で「飲む」ためだ。コンビニで酎ハイ500mlを2本買い、スーパーから少し住宅地に入ったところにある公園で缶を開けた。というか正確には、公園に着く前に歩きながらもう飲み始めた。水曜に飲んだときと同じ公園だ。今日は土曜日なので、キャッチボールをしている子供やベンチで休憩しているお年寄りの姿もあるが、そんなことは関係ない。再スリップからわずか3日で、入院して3度目となる飲酒だ。しかも今日は時間があるのをいいことに、前回よりも酒量が増えている。
 もともと飲むことを目的として出かけて行った。不愉快なこともあるが、それが今日飲んだことの直接の原因なんかじゃない。とりたてて飲酒欲求があったわけでもなく、自分でもよく分からない。
 ただ、飲むために外出したのだ。


 夕食後、夜勤の葉山看護師に薬を飲むよう促されたが「飲みたくない」と言った。今日は昼食のあとも千葉看護師に同じことを言ったが、あまりわがままを言って困らせても仕方がないのでこのときは結局素直に薬を飲んだ。
 けれども夕食後の葉山看護師には、僕が喫煙室にいたこともあり、「飲みたくない理由をあとで詰所で聞かせて」と言われ、放っておいたら結局そのままになった。
 薬を飲みたくない理由はふたつ。ジアゼパムもデパケンも、不安の抑制につながっていない気がするからだ。そもそも入院当初に比べて、いまの僕の不安なんて、薬に頼るほどのものではないのではないか。院外の自助グループに行くときや、退院が近づいたときには薬が必要になるかもしれないが、僕の身体が薬に慣れてしまうことが不安なのだ。不安を抑える薬を飲むことが不安という、へんてこな矛盾がある。
 もうひとつは、最近特にそうなのだが、日中とても眠いということ。どこまでが薬のせいか分からないが、残り半分の入院生活で残された時間は貴重だ。「昼間外出して公園で飲んでいる時間のどこが貴重だ」と言われると返す言葉もないが、それでもそんなことをしている時間も含めて、僕の時間は決して昼寝に充てたくはないのだ。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


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【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
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