-------- --:-- | カテゴリ:スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2014-07-26 23:37 | カテゴリ:スリップ
(※スリップから15日目)
 今日もよく晴れた一日だった。久しぶりにラジオ体操に出てみると、6時半を過ぎても誰も来ていなかった。少し待っていたら、最近体調の良くない福井さんがラジオを持って慌てて4階へ駆け降りて来て、ふたりだけでの体操となった。


 午前10時。セカンドミーティングは前回の男性心理士に代わって、田村心理士の担当で行われた。新しい参加者はいなかったが、節子さんが体調不良で欠席した。
 2回目の参加となるセカンドミーティングの今日のチャプターは、第③回『自分を知る』だ。テキストにもあることなのだが、一般的に依存症になりやすい性格として、「真面目」「几帳面」というのがよく挙げられる。
「皆さんは、ご自身の性格についてどう思われますか?」
 近況報告のあと、田村心理士の問いかけから始まった今回のミーティングだが、これについては町坂さんの意見に僕は納得した。
「本当に真面目なら、酒に逃げて仕事を放り出したりしないでしょ」
 僕自身のことを考えてみると、到底真面目なのではなく、失敗が怖いだけなのだと思う。失敗を恐れるあまり、無理にでも完璧を目指そうとするから、予習や下調べ、事前のシミュレーションが欠かせない。ある程度をやり遂げて、周囲から褒められたい願望もある。そういう意味では几帳面というより、病的に神経質なのかもしれない。ただ、メンタルが極端に脆いため、想定通りにいかない些細なことにまで悩み、神経をすり減らしてしまう。そのストレスがぱんぱんに膨らんで押し潰されそうになったときに、アルコールが絶好の逃げ場所になり、それが慢性化して依存になるのではないか。「繊細」だの「優しい」だのとよくフォローされたりもするが、それは単にココロが弱いだけで、空しい慰めにしかならない。
 このあとミーティングは、『飲酒するために嘘をついたり、言い訳をしたことはあるか?』という質問へ移った。これは質問のニュアンスが微妙で、僕には既に飲酒をしたことについての嘘や言い訳は数えきれないほどあるが、飲酒をする口実として他人に嘘をついたり言い訳をしたことはないと思う。ただし自分自身に対しては、「今日で最後」「明日は飲まない」と言い訳を重ねて、ほぼ毎日飲み続けてきた。
 自分への嘘や言い訳は自分に甘いだけで、他人への嘘や言い訳よりもたちが悪い。

 ミーティングの最後に、「なぜお酒を飲んでしまうと思うか」と訊かれた平嶋さんが言った。
「やっぱり時代についていけなくなったっていうか…。昔は多少酒を飲んで車を運転しても、そんなにうるさくなかったでしょ。別に人をはねるほど飲んでるわけじゃないし。昔の漁師なんか、みんな酒臭かったでもんですよ。やっぱり時代だなあ…。正直、酒飲んで車乗って何が悪いって思うとこはあります」
 これは平嶋さんの本音だろう。本音を語るのは自由だが、この発言には怒りが込み上げてきた。いま言ったことを、飲酒運転事故の被害者や遺族の前で言えるのか、と怒鳴りつけたいのを必死でこらえた。
 元肉屋の平嶋さんは、その関連なのかどうか、車で食品の移動販売をする仕事の経験もあるそうだ。それならばなおのこと、人間性を疑ってしまう。実際に病室内での雑談でも、飲酒運転だか信号無視だか、「昔の取締りはよく見逃してくれたのに、今は厳しい」などと文句を言っているのをよく耳にしていた。
 車の運転免許を持っていない僕が話題に入れないコンプレックスは確かにある。でも僕は、アルコール依存症の僕が車を運転することの怖さを自分で理解しているし、平嶋さんの本音には到底共感できない。が、それよりも何よりも、「なぜ飲んでしまうのか」という質問の答えを「時代についていけなくなった」で片付けて、昔がどうのというのは筋違いも甚だしい。まして、どこで生まれ育ったのかは知らないが、漁師はこの際関係ない。「昔はこうだった」というのは、依存症の回復を考えるうえで何の役にも立たない。考えるべきは「アルコールから抜け出せない言い訳を、なぜ『時代についていけなくなった』せいにしてしまうのか」ということではないのか。
 入院以来、こんなに腹が立ったことはなかった。腹が立ったら、無性にお酒が飲みたくなった。


 セカンドミーティングを終えて病棟へ戻ったところで、僕宛てに郵便物が届いていると看護師さんから伝えられ、1階事務局の金丸さんのところへ出向いた。ようやく届いた限度額適用認定証は、間違いなく5月1日からの発効だった。ただし有効期限は7月末日なので、仮に入院が長引けば再度手続きの必要があるので要注意だ。もっとも僕は、8月まで居座るつもりはないけれど。


 昨日退院した峰口さんが、デイケアに来たついでに早速病棟へ姿を見せた。デイケアに使用される体育館や教室の多くは、5ーB病棟のさらに奥、リハビリテーション部の付近に位置するため、デイケア参加者は建物の構造上どうしても5ーB病棟の病室や、デイルーム前の廊下を通らなければならない。退院した患者が顔を見せるいい機会になるのだが、病院暮らしの感覚が抜けず新しい生活に慣れない元患者には、デイルームや喫煙室に入り浸ってしまいやすい環境だ。
 峰口さんにとっては、まだ5ーB病棟のほうが落ち着く場所なのかもしれないが、長い間使っていた52号室のベッドにはもう新しい患者が入り、当たり前だがここは、退院した峰口さんがいつものように帰ってくる場所ではなくなっていた。
 遠巻きに峰口さんを見ていた米窪さんが僕に言った。
「看護師って、何だかんだ言っても退院した人には冷たいもんだね」
 彼が峰口さんと看護師のどんなやり取りを見たのかは知らないが、そういえば前にどの看護師さんだったか「退院しても、元気な顔を見せにいつでも遊びに来てくださいね」と言われたことを思い出した。
 退院して、依存症から回復しつつあるということを大前提とすれば、半分は社交辞令だとしても半分は本音、と理解していいとは思う。けれども翻って考ると、順調に回復するということは、本当はこの病院から物理的にも精神的にも離れていくということになるのではないか。ここはあくまで病院であり、気軽に戻れる場所であってはいけない気が、僕にはするのだ。


 昼食後、午後1時半の病院バスで西町駅前のショッピングモールへひとりで出かけた。以前から1階のパン屋の「量り売り」が気になっていたのだ。
 毎晩、喫煙室が施錠される前に最後のタバコを吸うさらにその前に、朝食で飲まなかった牛乳を飲むのが習慣になっているが、小腹がすいてパンのひとつでも欲しくなるのだ。
 駅前ショッピングモールのパン屋では、ミニサイズのパンが数種類、1g1円からという安いのか高いのか見当がつかない値段で量り売りしている。量り売りといっても、当たり前だがg単位でパンを売っているわけではなく、袋に詰めた重さの合計で販売している。そもそもミニパンが相場1個何gなのかよく分からないうえに、パンの大きさはどれも同じに見えるものだから、1個いくらで売ってくれたほうがはるかに分かりやすいと思うのだが、お店側の編みだした「何らかの策略」にいちど乗ってみたく、初めてこのショッピングモールに来たときからずっと気になっていたのだ。
 ちなみに僕は、ガーリック系やチーズ系のパンが大好きだが、入院中は特にニンニクなど臭いの強い食材をつかったものは食べられないことになっている。院外で飲酒した際、アルコール臭をごまかす材料に使われないためだ。ついでに言うと、食材ではないが消臭タブレット、マウスウォッシユ、香水も厳密には禁止だ。
 僕は4種類のミニパンを8個ほど袋に詰めてレジへ持って行った。会計は500数十円で、入院中の身としては決して安くはないのかも、という結論に終わった。


 さすがに外は少し蒸し暑かったが、徒歩で帰る途中、コンビニで 350mlの缶酎ハイを2本買って、公園で飲んだ。
 飲みながら考えてみた。セカンドミーティングでの平嶋さんの発言は、自分のアルコール依存を「時代の変化」のせいにしていた。
 ―― じゃあ、俺はどうなんだろう。こんな自分に育ったことを家庭環境のせい、父や母のせいにはしていないか。1クールの半分を終えても回復の実感が得られないことを、病院スタッフのせいにはしていないか。僕の被害妄想、強迫観念、集団への恐怖を、自分以外の誰かや世の中のせいにはしていないか。
 何より、今まさに僕は、すべてを平嶋さんのせいにしてスリップしている。


 僕に人のことをとやかく言う資格なんかない。ただ、忘れてはいけない。これは僕の病気だ。こうなったのはほかの誰のせいでもないし、回復へ向けて舵を切るのは僕なのだ。

 スーパー柏ノ丘店へ寄り、消臭タブレットと缶コーヒーという小細工を買い、病院へ戻った。そのまま午後4時からの、料理グループの打ち合わせに参加した。
 今回は平嶋さんが「免許更新」のため外れ、体調不良で最近点滴が欠かせない節子さんも人数から外れた。実習の学生さんが入れ替わりにふたり加わり、彼女たちがそれぞれ受け持ちとしてついている患者のうち、52号室の中山さんという60代の男性が行きがかり上参加することになった。もうひとりの患者、勝瀬さんにも声をかけたが、今月53歳の誕生日を迎える勝瀬さんは、料理当日の金曜は院内で行われる「お誕生日会」に出席するとかで、今週の参加は叶わなかった。
 ここに洋子さんと草刈さんと僕、そして看護師さん2名と一宮OTを加えた9名が今週のメンバーと決まり、予算は2,700円となった。メニューは先週決まった『鶏のグリーンソースがけ』がメインで、これにスープ、デザートはコーヒーゼリー、サラダは適当というラインナップができた。グリーンソースにはホウレン草と空豆を使うらしいが、ぼくにはこのソースが甘いのか苦いのか、さっぱりなのかこってりなのかまるで分からない。僕に分からなくても、節子さんのアドバイスと洋子さんのリードで何とかなりそうな感じだ。明日午後1時の病院バスで、洋子さん、草刈さんと買い出しに向かう。


 夕食後は院内AA「ヒナドリ」のミーティングに参加した。グループからは2名の男性が来て、院外からも男性1名が参加していた。僕は今日のセカンドミーティングでの出来事を通して、自分の飲酒も他人のせいにしているかもしれないと気づいたことを話したが、スリップしたことは口に出さなかった。


 最近、勝瀬さんのベッドの名札に落書きをしたり、米窪さんのベッドのパイプに「エサを与えないでください」などと書いた張り紙をしたりと、3人で子供みたいないたずらや、いい歳をしてくだらないエロ話で盛り上がることが多い。それは単に、退院の日が少しずつ近づいてくることへの焦りや不安をただ紛らわせる遊びなのかもしれない。遊びがエスカレートしていくのと、焦りや不安が増していくのが、まるで反比例しているようだ。

 明日は入院から50日目だ。でも、今日の2度目のスリップで、断酒はまた振り出しに戻った。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


関連記事
スポンサーサイト
【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
コメント(0) | トラックバック(0)

管理者のみに表示する

トラックバックURL
→http://nyuin3months.blog.fc2.com/tb.php/50-75c7b0ef
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。