-------- --:-- | カテゴリ:スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2014-07-26 01:38 | カテゴリ:レクリエーション
(※スリップから14日目)
 米窪さんが早朝から、昨日買ったバリカンで勝瀬さんに髪を切ってもらったそうだ。院内でやると怒られるので、4階玄関から外に出た、福井さんたちがラジオ体操をしている横で、勝手に電源を取って散髪していたらしい。4階玄関前でやろうが看護師さんに見つかれば、こっぴどく怒られるに決まってると思うのだが、いかがなものか。
 僕はラジオ体操にも参加せず、ベッドで爆睡していた。米窪さんから、僕も勝瀬さんに髪を切ってもらうよう勧められたが、プロの美容師にお願いするのは気がひけた。いっそこのまま退院まで、髪もヒゲも伸ばしつづけたほうが「病んでる感」が増していいかもしれない。
 午前7時頃にベッドから起きて、タバコを吸い、喫煙室を出たところで瞑想タイムが始まった。成りゆきではあるけるれど、入院して初めて、廊下ではなくデイルームでの瞑想参加となった。

 1年近くこの病院で寝起きし、現住所も病院としていた峰口さんが、今日退院した。しばらくはデイケアなどで来ることはあるそうだが、
「再入院ですぐに戻って来たらみっともないから、あまり格好いいことは言わない」
 とだけ言い残して病院をあとにした。
 昨晩、峰口さんは長かった入院生活最後の夜を、遅くまで自助グループの会場調べに費やしていたが、そのままデイルームで寝てしまい、夜勤当番の掛川看護師から病室へ戻って休むよう声をかけられていた。
 峰口さんは50代前半~半ばくらいで、あまり身の上を話さない。奥さんとは離婚したと、院内のAAミーティングでいちど聞いたくらいだ。以前どんな仕事をしていたのかも、雪絵さんとはどういう関係で今どうなっているのかも知らないが、1年も病院で暮らしたあとの社会復帰が相当に大変なのは想像にかたくない。なにより、いちばん不安なのは峰口さん本人のはずだ。
 消灯したデイルームで、眠剤が効いたせいなのか疲れなのか、昼間のいたずらっ子のような表情とはまるでかけ離れた様子で、椅子に座ってうなだれたまま静かに眠る峰口さんが、なんだかひどく孤独に見えた。


 火曜日午後のレクは、今日から看護実習に来たふたりの学生さんも交えて、例によってミニバレーで盛り上がっていた。僕は僕でやっぱりエアロバイクを漕いでいたが、いつもと違うマシンで負荷がかからず、あまり汗をかけなかった。バレー禁止の米窪さんは、黒部さんや一宮OTと卓球でそれなりに楽しそうにはしていたが、思いきり身体を動かせないストレスは多少なりとも感じているようだ。内科への不信感を口にした米窪さんを知っている僕には、なんだかそう見えて仕方がない。

 レクの合間に、昨日の学習会で感じた回復のステップについての疑問を、一宮さんに尋ねてみた。
「学習会で示したステップはあくまで一例です。患者さんの環境によっては、第Ⅱ期とⅢ期を同時進行していくことも可能だと思いますよ」
 一宮さんはそう言ったが、対人関係の問題について、ひとりで解決することは容易ではない。僕は退院後、お酒と距離を置くうえで父や母、特に父とどう向き合っていけばいいのだろう。
「院外の自助グループで、そういうお話をされましたか? 共通した悩みや経験を持った方もいらっしゃるかもしれませんよ」
 とても簡単には見つからない答えを、患者の立場になって一緒に探そうとしてくれる一宮さんの気遣いが、嬉しかった。
 これは僕の病気だ。米窪さんは「みんな所詮、仕事でやってるんだ」と言っていた。確かにそうかもしれない。でも、たくさんの人の支えなしではここにはいられないのも事実だ。1クール終了までの残された時間の中で、僕は進んで助けをを請いたい。そのためには、僕自身の努力も必要だ。


 今日は院外のAAにも行かず、散歩もせず、病棟で過ごした。院外のAAはまだまだ植中さんにくっついて行くのが精一杯だから、植中さんがAAを休むときは僕も休むという状態だ。おまけに火曜日は院内のAAミーティングもないため、今日はレクリエーションだけの一日となった。
 パニック障害のため、このところ精神的に落ち込みが激しく、昨日のAA「カッコー」のミーティング参加も直前で取り止めた利根川さんは、あまり気分が乗らないと言いながらも、自らが入所する中間施設が運営するAAグループのミーティングへ出かけて行った。転院先から戻っても体調が芳しくない米窪さんは、内科のドクターから許可がでればぜひ足を運びたいと言っている。そろそろ僕も、自分で判断して動かないといけない。


 女性病室の55号室へ担当が移った細池看護師に代わり、6階病棟から丹羽さんという女性看護師が新たに53号室の担当となった。
 丹羽さんは50代前半くらいの、かなりハキハキした感じの看護師さんで、「なんでも病棟」と呼ばれる6階でもさくさく仕事をしていた様子が想像できる。声も大きく、患者と接するときにはまるで子供に言い聞かせるような話しかたになるのが特徴だ。
 ともあれ今日から、53号室の部屋担当は牛本主任、掛川看護師、前上看護師、丹羽看護師の4人となった。といっても、患者は何かあれば部屋担当など気にせずその日出勤の看護師さんに遠慮なく声をかけるので、部屋担当がどうこうというのは僕らにはまるで関係がないことなのだが。

 明日の午前中は勝瀬さんが、今日から看護実習についた学生さんを連れて、柏山へ散歩に出るそうだ。米窪さんもちゃっかりついて行くようだが、僕は10時からセカンドミーティングがあるため、午前中は外出できない。
 勝瀬さんについた実習生は、学生といっても30代前半の既婚女性で、お子さんもいるそうだ。僕が見立てた「実習生がつく患者の条件」は20代前半の独身女子という、一般的な看護学生を前提にしているため、この条件から外れている勝瀬さんが今回対象患者となったのも頷ける。
 それにしても、子育てをしながら看護師を目指して勉強する学生さんの姿は、半ば人生を諦めてアルコール依存者となった僕にはとても神々しく、光輝いて見えた。
 アルコール病棟は決して掃き溜めではない。患者にせよ病院スタッフにせよ実習生にせよ、ここでは様々な人が行き交い、様々な色を放って見せている。

 今日は30℃を越えたそうだ。病棟のあちこちで扇風機が回りだした。みんな口を開けば「暑い」を連呼するが、湿度が低い分、大阪の夏に慣れた僕にはまだまだ快適だ。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


関連記事
スポンサーサイト
【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
コメント(0) | トラックバック(0)

管理者のみに表示する

トラックバックURL
→http://nyuin3months.blog.fc2.com/tb.php/49-48ca430b
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。