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2014-07-25 14:30 | カテゴリ:診察・診断・回診
(※スリップから13日目)
 入院して初めて、朝の瞑想を寝過ごした。今日から瞑想タイムを仕切る患者会新会長の植中さんの声で目が覚めたが、そのままベッドで耳だけで参加した。ちなみに、患者会の新しい副会長は米窪さんだ。

 このところ散歩にも出ていなかったので、米窪さんと勝瀬さんと僕の3人で、午前中に2時間散歩へ出た。徒歩で坂を下って駅前ショッピングモールの100円ショップへ行き、ベッドに取り付けるLEDライトを買ったが、眩しすぎて使えそうにない。
 そのあとぶらぶら歩きながら来た道を戻り、バリカンを買いたいという米窪さんに付き合いスーパー柏ノ丘店へ立ち寄った。今日は風もなく、気温も30℃近かったようだ。それでも湿度は低く、みんなは暑い暑いと言っていたが、僕は耐えられないほどでもなかった。
 本当に問題なのは、クーラーのないこの病棟で、間もなくやって来る本格的な夏をどう過ごすかだ。業務用の扇風機がデイルームに運ばれていたが、あんなもので暑さを凌げるのだろうか。

 柏ノ丘店で買い物を終えた時点で、2時間散歩のリミットを10分ほど過ぎ、既に昼食の時間になっていた。詰所に心配をかけるのも忍びないので、とりあえず「米窪さんが暑さで少しバテた」ということにして、僕が病院へ電話を入れた。それがかえって心配をかけてしまい、牛本看護師主任が坂を下りて迎えに来る始末だった。
 実際、米窪さんの体調はあまり良いとはいえない。この病院の内科への不信感や反発もあるようだ。アルコール依存症といっても、米窪さんのように身体のあちこちに重い疾病を抱えた患者は多い。この病気に関しては本来、内科の領域とは密接に関わってくるはずだし、精神科の依存症病棟と内科の両方を持った柏ノ丘病院は理想的に思える。けれども米窪さんに言わせれば、
「内科の水準が低くて設備も乏しい。そのうえ精神科との連携もできていない。看護師は残業したくないから、申し送りでもきちんと情報伝達がされない。みんな所詮、仕事だからやってるんだ、ってことが分かってきたよ」
 米窪さんが物事に冷めた見方をしがちだとはいえ、こんなにも辛辣な物言いをするには理由がある。以前、別の病院で内科の診察を受けた米窪さんは、担当医から「あなたは大勢いる患者のひとりでしかないと思ってますから」と言われたことがあるそうだ。その医師の真意は分からないが、この柏ノ丘病院でも、内科があるのに転院せざるを得なくなったり、食事制限の指示があったと思えば、点滴のせいで血糖値が下がったから今度は甘いものを食べろと言われたり、そういう経緯が不信感を募る結果になっているようだ。
 僕にはこれについてあれこれ言えた立場ではないが、どんな病気やケガの場合でもはっきりしているのは、患者が医師や看護師、ひいては病院を信頼できなくなってしまえば医療行為は成り立たない。入院する意味などなくなってしまう。それは患者にとっても病院にとっても不幸なことだ。
 先月初旬、薬物依存症で入院していた丸谷さんが言っていた言葉が思い出される。
「大事なのは、病院のスタッフに『自分を任せることができるか』だと思うよ」――


 午後2時からの学習会は6回目を迎えた。今日は『⑪ 依存症とリハビリテーション』というタイトルで、作業療法士(OT)の一宮さんが担当した。僕は今日も先週と同じく、最前列中央の席に座って学習会に臨んだ。
 内容としては、依存症とはどのような病気か、どのような人が陥りやすい傾向にあるかということを簡単にさらったうえで、ミーティングやレク、SSTなどのARPの重要性や、デイケアや自助グループについて改めて説明したものだ。正直「今さら度」が高く、申し訳ないけれども後半はほとんど寝てしまった。
 ただ、ひとつ気になったのは、回復していくための段階として第Ⅰ期~Ⅳ期に分けて示したところだ。回復へのステップについてはミーティングやAAでも必ず取り上げられるが、それぞれ微妙に内容が異なる。先日のセカンドミーティングのテキストで示されたのは数年周期のプロセスで、何をもって「回復」といえるのかが定かでないため、どう捉えていいのかが分からなくなってしまう。お酒に依存するに至った理由も、患者を取り巻く環境も人によって様々だ。
 退院後、それほど時間も労力もかけずにお酒を断つことに成功する人もいれば、何度もスリップ(再飲酒)を繰り返す人もいる。また、1年でも10年でも断酒が続いていたのに、たった一度飲んでしまったがために、依存がぶり返して振り出しに戻るケースもある。つまり、回復へのステップといっても一概に断定できないのだ。

 今日の学習会で、一宮OTは次のような4段階を示した。

○第Ⅰ期…相談や援助の場に来て、アルコール依存の自分を認める。
○第Ⅱ期…明日のことは考えず、今日一日を飲まないで過ごす。
○第Ⅲ期…なぜ飲酒に頼らざるを得なかったのか、自分を「見つめる」。
→親子、夫婦、職場などの、自分の対人関係を見つめる。
○第Ⅳ期…自分がどう変わりたいかを考える。
→対人関係のパターンを「より生きやすく、楽な関係」へ。人とのつながりの中で、「心地よい体験」や「共感」を重ねる。

 このあと入院中にできることとして、ARPの具体的な説明へと移るのだが、第Ⅰ期とⅡ期が簡潔で分かりやすいのに対し、第Ⅲ期、Ⅳ期が何だか抽象的でいきなりハードルも上がる。対人関係が絡むと、自分ひとりでの解決はほぼ不可能に思える。また、よく「ひとりで悩まないで」とか言われるが、家庭や職場の対人関係の問題に、誰がどこまで踏み込んでくれるというのだろう。
 僕の場合、退院後に順序立てて第Ⅱ期からⅢ期へ移るということはできない気がする。第Ⅲ期で示された『対人関係を見つめる』前に、お酒を飲まずにいられるだろうか。同じことの繰り返しにはならないだろうか。第Ⅱ期とⅢ期のステップを同時に進めていくことは可能なのだろうか。

 いちど湧いた疑問は止まらず、混沌としてきた。一宮さんに質問しても、かえって困らせてしまうだけのような気がして、何も訊けなかった。
 ただ、彼女の患者を見る視線はとても優しい。職務上当たり前といえばそれまでだが、彼女は僕ら依存症者を「精神科にいるココロの病んだ連中」とは決して見ず、僕らと一緒に考え、悩んでくれている。

 誰をもってしても答えなんか出ない。そういう病気だということは間違いない。


 学習会から戻ると、沼畑師長から担当医師の交替が唐突に告げられた。森岡先生が体調を崩したため、5ーB病棟の受け持ち患者は当面すべて渡辺先生という別の医師が担当になるというのだ。
 渡辺先生は5人いる担当医のうちのひとりで、先月12日の学習会『⑧ アルコールがつくる身体の病気』を担当した、落ち着きのない喋りかたをするドクターだ。あとで聞いたのだが、あの落ち着きのなさは『チック症』と呼ばれる一種の障害なのだそうだ。40代前半くらいの若い先生だが、防衛医大出身というからさぞかし優秀なのだろう、とあれこれ詮索したくなる。回診日は森岡先生と同じ木曜だが、午前9時45分からの診察のため、開始時間がこれまでより早くなる。さらに、現在主治医を務めている患者に加えて受け持ちが増えるのだから、回診にかかる全体の時間も大幅に長くなることが予想されるため、10時半からのレクにかかってしまう可能性がある。
 それはそれで仕方がないのだが、それよりも僕は正直、主治医が変わったことに安心を覚えてしまった。渡辺医師は先の学習会で見た程度で、どんな先生なのかは当然知らない。ただ、これまで森岡先生の回診では、相性というのか、僕はどうもものを言いづらい雰囲気を感じていたからだ。

「森岡先生、大丈夫なんですか?」
 話の流れ上、いちおう師長に尋ねた。森岡先生が復帰までどれくらいかかりそうか、さりげなく確認したいこともあった。
「知らなーい。私身内じゃないから」
 そりゃそうだ。


 今日は久しぶりに1時間早い夕食を摂って、植中さんと院外AAのミーティングに足を運んだ。「カッコー」という、院内ではミーティングを開いていないグループで、初めての参加になる。西町駅まで病院バスまで向かい、そこから徒歩で10分ほどの西町カトリック教会が会場だ。午後7時開始なのに、1時間近く前に着いてしまった。ミーティング開始までのこの時間が、雑談で仲間との親睦を深めるフェローシップの意味があるそうだが、親睦も何も、居場所のない今の僕には苦痛でしかない。
 今日はAAのいくつかあるテキストのうち、『どうやって飲まないでいるか』という冊子を使った『リビングソーバー・ミーティング』と呼ばれるミーティングだ。通常どこのAAでも、必要なテキストはグループによって数冊ほど用意されていて、ミーティングに際して僕のように自前のテキストを持っていない参加者にも貸してもらえる。テキスト本文のうち、その日さらうチャプターを輪読したあと、例によってひとりずつ順番に自らの体験談や考え、最近感じたことなどを話していく。本文の内容と直接関係なくても、飲酒に関わることならどんな内容でもOKだ。
「どうやって飲まないでいるか」―― そんなこと、僕には分からない。僕はシラフで集団に交われないこと、そして実家の父と母のことを簡単に話し、退院後にスリップしないかという不安を口にした。「どうやって飲まないでいるか」の答えは、もちん誰からも貰えるものではなかった。


 明日からまた、看護実習の学生さんが2週間ほどやって来るそうだ。学生さんは実習の期間中、それぞれ誰かひとりの患者の受け持ちとなる。師長から要請を受けた患者は、あくまで協力というかたちで、学生さんとできるだけ行動を共にし、話し相手になることで、学生さんが患者に直接接する機会とするのだ。
 対象の患者は、もちろん誰でもいいというわけではない。比較的症状が落ち着いていて、学生の看護実習に理解を示していないといけないだろう。20代の女子学生が多いため、50代後半以上の男性患者に要請される傾向が強い気がする。子供の有無も関係しているのかもしれない。

 そんなことを推測していたが、今回はよりによって学生さんのひとりが、勝瀬さんの受け持ちとなるというのだ。
 勝瀬さんは50代前半で子供はいない。僕が予想する「実習生がつく患者の条件」の対象から外れてしまうが、そんなことよりも、自宅へ外泊するたびに気落ちして戻って来る勝瀬さんは、このところ憔悴しているようにも見える。ストレスからなのか、米窪さんと僕との会話の中では信じられないようなエロ発言が飛び出すこともしばしばだ。「俺につけばいろいろお世話してやるのに」と危険な笑みを浮かべる米窪さんよりははるかにマシだが、それにしても師長のミスチョイスではないのか、心配だ。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


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【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
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