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2014-06-06 16:37 | カテゴリ:外出・散歩

 今朝も6時半から、4階玄関前のラジオ体操に参加した。
 ラジオ体操第一、第二と続き、最後は峰口さんを忠心に、四股を踏むように腰を落とした姿勢から大声で「よいしょー!」と3回、両手の拳を空へ向かって突き上げる。
 これが何の儀式なのかは知らないが、とにかくそうやって朝の体操が終わり、一日が始まる。

 朝の瞑想のあと、米窪さんに代わって患者会副会長の町坂さんが会長に繰り上がったことが報告された。米窪さんの転院は連休明けになるそうだ。
 町坂さんは48歳の男性患者で、地元である東海地方の街に家族を残してこの病院に入院している。もともとは飲食店で調理師として働いていたそうだ。アルコールの影響で両足の末梢神経に障害を抱え、薬で痛みを抑えているという。抗鬱剤も数種類を欠かさず飲んでいるらしいが、その甲斐あってなのか頻繁に詰所へ入り浸り、若い女性看護師さんに声をかけている。…ように見える。

 明日から連休後半ということで、一日外出や外泊に出る人も多く、午前中はその準備やら申請やらでばたばたする光景もあった。
 食事をどうするかの関係上、外出・外泊申請は前日の正午までに出さなければいけないのだが、明日から4連休に入るため、7日の水曜日までの外出や外泊は今日のお昼までにまとめて申請する必要がある。
 ちなみにここでいう『外出』とは、午前6時~午後8時までの一日外出のことを指す。2時間以内の外出は『2時間散歩』と呼ばれて区別され、こちらは午前と午後それぞれ1度ずつまで、実際に病院を出る直前に申請すればOKで、要するに「思い立ったら外出が可能」だ。
 僕もようやく一日外出が解禁になったので、実家へ一時帰宅するつもりだ。とりあえず、ミーティングの予定がない次の日曜と、来週火曜の外出申請を提出しておいた。


 午後1時。配薬の手続きなどの都合で予定より遅くなったが、雪絵さんは峰口さんに見送られて、病院のバスで無事退院して行った。
 僕は僕で、職場のマネージャーと連絡がつかないことに気を揉みながら、ひたすら電話を待っていた。休職扱いで会社に留まらせてもらえるのか、5月になってもまだはっきりしていないのだ。
 そうしているうち、米窪さんから散歩に誘われたので、外出することにした。ほかには康平くんと、54号室の丸谷さんが一緒で、男4人の2時間散歩だ。

 今年30歳になるという康平くんは、外出申請してほかの入院患者とスタジオへ足を運ぶ音楽好きの青年だ。以前、師長にギターの持ち込みをお願いして、あえなく却下されたという。彼は大麻から始まって、脱法ハーブの薬物依存で入院している。
 丸谷さんも同じく薬物依存症で、歳は僕より少し上の41歳だ。様々な薬物に手を出してしまったが、中でも『GOGO』という脱法ハーブの依存でトラブルを起こし、街の郊外にある別の精神病院での保護入院を経てここへ来た。
 正式な診断こそされていないが、丸谷さんは自身でアルコール依存についても自覚していて、5ーB病棟での生活は4ヶ月になるという。僕がこの病棟に来たとき、いちばん最初に声をかけて挨拶してくれたのが丸谷さんだった。

 4人で病院から西へ、坂を上って柏山周辺をぐるっと回り、最後は下り坂を歩いて戻って来た。特に当てもない、気ままな散歩だ。5月に入ったとはいえ、時折吹く風はまだまだ寒いが、歩いていると身体が火照ってくる。
 激しい運動を止められている米窪さんが、身体を動かしたい衝動からなのか、突然全速力で坂道を駆け上がる。そしてすぐにバテる。この人は大丈夫なのだろうか。
 道端の花や木を観る。坂の上から眼下に広がる景色を眺める。福井さんの物真似で盛り上がる。世間ではおっさんと呼ばれて差し支えない年齢なのに、その世間に適応できない精神科の患者4人が平日昼間にはしゃぐ姿は、周囲にはどう映るのだろう。

 坂の上の住宅地にある小綺麗に整備された公園に入り、鯉が泳ぐ池を見に行ったとき、携帯電話が鳴った。職場のマネージャーからだった。
 退院後に医師の診断書を提出すれば、病名に関わらず見舞金の支給が受けられるという。会社が入院費の何割かを負担してくれるという以前の話とは少し違うが、僕は契約社員として会社に残れるということだ。実費負担にはなるものの、休職中も社会保険は継続される。
 僕は一応、クビにならずに済んだ。


 夕食後、AA「はましぎ」に参加した。院内では毎月第2週を除く金曜に行われるAAで、雪絵さんに連れられて行った昨日、一昨日のふたつのグループとはまた別のAAグループになる。今日は勇気を出して、ひとりで会場の教室へ向かう。僕のほかには勝瀬さん、米窪さんと、ギャンブル依存症の永塚さんが参加していた。
 AAグループからは、この病院の元入院患者だという50代の男性がひとりで来られて、依存症が『進行性の病気』であることをテーマに自身の体験を語った。そのあと例によってひとりずつ順番に、自らの話をしていくのだが、既にARPのミーティングやほかのAAで見知った患者ばかりなので、聴いた話の繰り返しになるし、こちらも同じ話しかできない。AAの場は異なるし、そうでなくても同じ内容を話してまったく問題ないのだが、まだ慣れない僕は、この辺で話を少し盛ったほうがいいのかなどと余計な心配をしてしまう。

 本来AAのような自助グループの集まりは、一般の集会施設や教会などで行われるのが通常で、ARPの一環として病院内で行われるAAは『メッセンジャー』と呼ばれる、グループを代表する方々に病院へ足を運んでもらい、入院患者にAAを「体験」させるというニュアンスが強い。
 また、各会場で行われるどのAAも自由に参加が可能で、本名を名乗る必要もない。アルコホーリクス・アノニマスの『アノニマス』とは「無名」即ち「匿名」を意味するが、5ーB病棟の知った患者どうしでは匿名もへったくれもない。3ヶ月の間のARPでは、病院外で行われるAAや断酒会への参加ももちろん認められている。本当に見知らぬ人たちの集うミーティングにも参加すべきだとは思うが、僕にまだそこまでの勇気はない。
 いずれ近いうち、と相変わらず先延ばしにするだけだ。

 メッセンジャーの男性が最後に言った。
「僕は酒を断って9年になりますが、未だに飲みたいと思うことはあります。そういう意味では、やっぱりこの病気は進行性で、一生付き合わざるを得ないんです。でも今この瞬間、僕が今日AAのためにここに来ている間は、少なくとも飲まずにいられますから」

 ―― 飲まずにいられる時間をつくる。至極単純なことだが、依存症者の大半が退院後にスリップ(再飲酒)してしまう現実がある。


 就寝前に洗面所で、勝瀬さんから何げなく声をかけられた。
「創作のひとつで、革細工ってあるでしょ。あれ、なかなか面白いですよ」
 創作とはARPの作業療法のひとつで、手工芸などを体験して集中力をつけたり、自己表現をするものだ。「飲まずにいられる時間」として、趣味を見つけることにもつながるかもしれない。革細工のほかにも、陶芸なんかもあったりするらしい。
「確か陶芸もありましたよね? あれはどうなんでしょう」
 話に乗っかって、尋ねてみた。
「俺も最初は陶芸をやろうと思ったんだけど、あれは無理ですね。3ヶ月じゃとても終わらない」
 僕は実のところ、陶芸ならいちどやってみてもと思っていたのだが、そうか。3ヶ月あるとはいえ、週に1回1時間のプログラムでは、できることが限られるのも無理はない。
 「革細工なら2ヶ月もあれば、まあ仕上がりますよ。凝る人はバッグなんか作ってるけど、定期入れくらいならそんなに難しくないんじゃないかな」
 なるほど、革細工か。
 気付いたら、ここへ来てもう半月が過ぎた。でも1クール終了まで、まだあと2ヶ月半あるのだ。


※文中における、病院および病院関係者氏名・団体名、地名等については、すべて仮名とさせていただいています。


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【ジャンル】:心と身体 【テーマ】:禁酒
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